認知処理療法(CPT)とは

認知処理療法(Cognitive Processing Therapy:CPT)は、心的外傷後ストレス症(PTSD)に対する認知行動療法です。

CPTは1980年代後半に米国で開発され、その後の数多くの研究により、性暴力、虐待、事故、災害、戦闘体験など、さまざまな心的外傷体験に関連するPTSD症状の改善に有効であることが示されています。

心的外傷体験の後には、出来事そのものだけでなく、その出来事をどのように受け止めたかによって、強い罪悪感や自責感、不信感、無力感などが続くことがあります。

CPTでは、心的外傷体験に関連して生じた考えや信念に目を向け、治療者との対話やワークシートへの取り組みを通して、回復を滞らせる考え方を見直していきます。

科学的根拠に基づく治療のプロトコル

CPTは、無作為化比較試験をはじめとする多くの研究によって有効性が検証されてきた、科学的根拠に基づく心理療法です。

米国退役軍人省、米国国防総省、国際トラウマティック・ストレス学会などの診療ガイドラインにおいて、PTSDに対して推奨される治療の一つに位置づけられています。治療マニュアルは複数の言語に翻訳され、世界各国の臨床、教育および研究で活用されています。

日本でもCPTの臨床研究や普及が進められています。伊藤ら(2025)1)により、日本のPTSD患者を対象とした無作為化比較試験においてCPTの有効性が報告されました。また、2026年度の診療報酬改定により、一定の要件を満たす場合には、CPTを保険診療として実施できるようになりました

※すべての医療機関で受けられるわけではありません。保険診療としての実施の可否は、医療機関の届出状況、治療者の要件、患者さんの状態などによって異なります。

1) Ito M, Katayanagi A, Miyamae M, et al. Cognitive Processing Therapy for Posttraumatic Stress Disorder in Japan: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2025;8(2):e2458059. Published 2025 Feb 3. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.58059

PTSDに対する心理療法の選択肢

PTSDには、効果が確認されている複数の心理療法があります。それぞれの治療法は、トラウマ体験への取り組み方やホームワーク、セッションの構成などに違いがあります。どれか一つが誰にとっても役立つというものではなく、患者さんの希望や状態、治療者の専門性を踏まえて、適切な方法を選ぶことが推奨されます。

国際的なガイドラインで推奨される成人のPTSDに対する主な心理療法

CPT認知処理療法
治療の焦点
トラウマとなった出来事の意味づけや、体験によって形成された認知
特徴
出来事が起きた文脈を捉え直すことで、自然な感情の働きを取り戻し、自分・他者・世界に対する見方をより現実的で実際的なものにする。
主な方法
対話とワークシートによる考え直し
ホームワーク
ワークシートを用いて、考え方を振り返り、新しい見方を練習する
標準的な構成
原則12セッション(週1-2回、約50〜60分)。
PE持続エクスポージャー療法
治療の焦点
トラウマ記憶への恐怖や回避
特徴
トラウマの詳細を話したり、避けてきた本来的には安全な状況に直面したりすることで、強い感情に慣れを生じさせ、感じ方に変化を起こす。
主な方法
想像・現実エクスポージャー
ホームワーク
セッション録音の聴取や、回避している状況への段階的な曝露を行う
標準的な構成
一般に8〜15セッション(週1回、約90分)
EMDR眼球運動による脱感作と再処理法
治療の焦点
未処理のトラウマ記憶
特徴
トラウマの記憶を思い浮かべながら、水平方向の左右の眼球運動や音や触覚刺激に注意を払うことで、記憶を経験する方法に変化を起こす。
主な方法
トラウマ記憶想起と両側性刺激による再処理
ホームワーク
必要に応じて、セッション後の変化の記録や、安定化のためのセルフケア等を行う
標準的な構成
週1回、50~90分のセッションを継続的に行う。治療期間はトラウマの時期や数によって左右される。
CT-PTSDPTSDに対する認知療法
治療の焦点
トラウマ記憶と現在の脅威感、否定的認知
特徴
PTSDを維持する認知や記憶、行動を個別に評価し、症例ごとに認知・行動的な介入法を組み合わせて実行することで、維持過程に変化を起こす。
主な方法
記憶の更新、認知的介入、行動実験など
ホームワーク
行動実験やトリガーへの対処、認知の振り返りなどを実生活で実践する
標準的な構成
一般に8〜12セッション。必要に応じて延長される

※ 米国心理学会(2025)、米国退役軍人省・国防総省(2023)、NICE(2018)、国際トラウマティック・ストレス学会(2019)の成人PTSD治療ガイドライン、および各療法のマニュアルをもとにCPT-Japanが作成。

CPTの特徴

CPTでは、トラウマ体験そのものを詳しく語るのではなく、トラウマティックな出来事が起きた文脈や、出来事の意味づけに焦点を当てます。また、安全、信頼、力とコントロール、価値、親密さなどに関して、出来事の後に作られた「スタックポイント」を見つけ、治療者との対話やワークシートを通して、より事実に即した柔軟な見方を検討します。

CPTのモデル図:PTSDに関わる認知の問題(トラウマ出来事の意味、安全・信頼・力とコントロール・価値・親密さ)から、治療セッション(1回50分/12回:心理教育・問題となる認知の同定・認知再構成)とセッション外の練習課題を経て、治療の目ざすところ(PTSDの理解の深化、トラウマ記憶の苦痛の軽減、感情の麻痺や回避の減少、緊張感や不安感の軽減、抑うつ・罪悪感・羞恥心の軽減、日常生活の改善)に至る流れを示す図